写真家 小松健一・オフィシャルサイト / Photographer Kenichi - Komatsu Official Website

[no.1027] 2017年5月2日  皐月、早苗月、五月雨月、田草月・・・に入った~☆彡 新刊の写真集で心に響くものがあった。田沼武能写真集『時代を刻んだ貌』(クレウ”ィス刊/定価3,000円+税)、芳賀日出男著『写真民俗学 東西の神々』(角川書店刊/定価2.500円+税)、写真:藤田庄市『伊勢神宮』(新潮社刊/定価15.000円+税)である・・・・

 

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2017年4月30日の日没(自宅前の畑で)
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昭和という時代を刻んだ240人の肖像写真は、圧巻だった。あらためて「写真家 田沼武能」の大きさを認識した。また田沼武能という写真家と同時代を生きていられることを誇りに思った・・・。

目次は第1部 芸と理を究む 第2部 詩文の世界で 第3部 空間とデザイン 第4部 絵画と彫刻と に分かれている。序文を大村彦次郎 取材ノート・文献を著者が記している。本のサイズは200X265ミリで、324ページ。上製本、2色刷り。 定価:3,000円+税 ぜひ、一冊手元において時折、珈琲など飲みながらページをめくりたい本だ。昭和文化の色濃い香りが漂ってくる良著である・・・。

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田沼さんの師匠である木村伊兵衛さん(1956年撮影)と、晩年の10年程僕も何度かお会いして学ばせてもらった土門拳さん(1953年撮影)を掲載したページ。

この写真集をめくっていて思い出したことが2つあった。その一つは、僕の日本写真家協会の推薦保証人にもなってくれた写真家・田村茂さんのことだ。田村さんは『現代日本の百人』(文藝春秋社刊)に代表されるように、土門拳の『風貌』と並んで肖像写真の評価は高い。ちなみに田村さんは1906(明治39)年生まれ、存命していれば111歳だ。その田村さんが撮影した佐藤春夫や高村光太郎の写真を暗室に潜り何枚もプリントしたことだ。

もう一つは、かって田沼さんが新宿のコニカギャラリーで個展をしたときのオープニングパーティで、あいさつにに立った作家の山口瞳さんが「田沼さんの写真の魅力の本質は肖像写真にある。こちらをさらに極めてほしい・・・」と言ったことを思い浮かべたのである。

田沼さんは、この写真集に自筆で揮毫し、さらに丁重な手紙まで付けて贈って来てくれた。心からの感謝の意を表したい・・・。 合掌

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著者である芳賀日出男さんは、96歳を迎えられた僕ら写真家にとっての大先輩である。特に僕にとっては「飯田市藤本四八写真文化賞」の第1回受賞者が芳賀さんで、第2回の受賞が僕であったことから、とりわけ親しくしていただいた。芳賀さんと言えば日本中はもとより世界百十数ヵ国の習俗を取材し続けたことで知られている。本書は人と神との交わりを、東西の祭礼を通して312ページ、写真430点を収めた集大成となっている。

目次は、第1部 神を迎える 第2部 神を纏う 第3部 神が顕わる 第4部 神に供す となっており、例えば第2部は、装飾、仮面、人形のように各章ともさらに細かく分かれている。末巻の「カメラを手にして90年」の著者の文章は、芳賀さんの96年の人生と人間性そのものが赤裸々に描かれており、深く心が打たれた・・・・。

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写真は本文より。 実はこの本の出版を記念したパーティが4月12日、角川本社ビルで行われた。当然、僕は真っ先に行かなければと思っていたが、残念ながら1年前からこの時期、宮崎・日向市と鹿児島市へ行くことが決まっていたので出席できなかった。僕はその事情を手紙に書くとともに、お祝いの気持ちを込めて芳賀さんへ一句贈った・・・。  民俗写真貫きとほす祭りひと  風写

すると日を置かず直ぐに『写真民俗学 東西の神々』が贈られてきた。それも96歳とは思えないしっかりとした署名を添えてだ。A3版の決して大きくない本ではあるが、この中にはヨーロッパ、オセアニア、アジア、南米、北米、そして日本など各地の120以上の祭礼が写真と共に、貴重な取材記録が収められており、ずっしりと重い。民族や歴史文化の異なる様々な神事・祭礼には興味を惹かれるとともに資料的価値も高いと思った。ぜひ、一冊手元に置いておきたい本である・・・・。

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この写真集は、写真を担当した藤田庄市が10数年間にわたり、伊勢神宮の春夏秋冬すべての神事と遷宮。それらを取り巻く自然も含めて深く丹念に記録するとともに、表現においても神の気配を感じさせる重厚さを得て、日本独特の歴史と文化をみごとに捉えている・・・・。

何度見ていても飽きさせない久しぶりの力のこもった写真集である。編集・構成は、写真集の編集では抜群に定評が高い、新潮社の金川功編集委員が担当している。僕の著書『心に残る「三国志」の言葉』と『太宰治と旅する津軽』も彼と一緒にした仕事である・・・。

実は藤田庄市さんとは、まだ僕が20歳頃からの友人で「庄ちゃん」と呼ぶような仲だった。彼は様々な報道写真を撮影し、国内外に発信していた通信社の写真部に所属していた。僕は青年・学生向けの新聞社の写真部にいた。都内の出版や新聞など写真部にいた若い写真家が有楽町の片隅に集まって月に1度写真の勉強会をし、よく呑んで討論していた。
その頃、土門拳、田村茂、藤本四八、伊藤逸平、田中雅夫、伊藤知己、丹野章、目島恵一、川嶋浩、英伸三さんらが中心となって現代写真研究所が開校することとなった。その第1期生として本科1年に入ったのが僕と藤田庄市さんだった。他にはいま、フォトジャーナリストとして活躍している森住卓君などがいた・・・。庄ちゃんは、僕の結婚式の実行委員にもなってくれ、写真の撮影もしてくれた。1974年のことだ。懐かしい思い出ではある・・・・。

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2017年5月1日の夕暮れ(自宅前から)

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