写真家 小松健一・オフィシャルサイト / Photographer Kenichi - Komatsu Official Website

[no.275] 2011年2月25日 花巻・宮沢賢治記念館、遠野・めがね橋、大沢温泉、鉛温泉、イギリス海岸、早池峰山などを取材・・・・。盛岡で、エッセイストの澤口たまみさんと再会した。

2月21日から24日までこの夏、新潮社から刊行予定の宮沢賢治の本の最終的な取材のために、岩手県花巻、盛岡、遠野周辺を巡ってきた。例年にない深雪のなかのイーハトーブではあったが、数点は撮れたと思う。今日、明日と2回に分けて、啄木の故郷・盛岡と賢治の故郷・花巻からのレポートを写真を中心に掲載する・・・・・・。

 

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新花巻駅でレンタカーを借りて先ず向かったのは、宮沢賢治記念館である。副館長の牛崎さんを訪ねるも、休暇中で、他の学芸員が現在の企画展示中の「賢治と遠野」について説明をしてくれた。胡四王山の山頂近くにある記念館からの花巻の街の眺めは格別で北上川の流れも一望できる。雪景色の花巻をまずは1カットカメラに納めた。遅い昼食に地元の手打ち蕎麦を食べてから遠野市にある通称めがね橋に向かった。JR釜石線に架かるこの橋は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をイメージさせると近年夜はライトアップし、恋人たちには「愛情スポット」して人気が高いという。猿ヶ石川の辺に下りれるように公園の整備工事が急ピッチで進められいた。「3月中には完成するので、また来てください」と現場監督は言った。僕は20年以上前に何度か訪れて撮影をしているが、周りにも大きなスパーなどが出来て以前のイメージとはまったく違っていた。ここめがね橋でしか販売していないという地ビールや焼酎を求めて今晩の宿である大沢温泉へ車を走らせた。

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北上高地麓の遠野市方面と比べると奥羽山脈山麓となる大沢温泉や鉛温泉は、はるかに雪が深くなるのが実感としてわかる。昨年の晩秋は、賢治とは遠戚にあたり、童話「なめとこ山の熊」にも登場する鉛温泉に泊まったが、大沢温泉が僕の常宿である。かれこれ30年程前から利用しているのだ。夕飯前に冷えた体をゆったりと温泉に浸かった。豊沢川の岸辺にある露天風呂は昔から混浴で、この日も恋人たちが入浴していた。但し、この湯では誰であろうとも水着はもちろん、バスタオルなどを体に巻いてはいることも厳禁である。この当たり前のことをきちんと貫いているところがいい。やたらと温泉ブームだとかで、若い女性が水着やタオルをぐるぐる巻きにして入浴してくるのは、山の湯の気分を害する。清潔さにも欠ける。つまり嫌いなのだ。堂々と入ればいいではないか。地元のおばちゃんみたいにね・・・・・・。

部屋に来てくれた女中さんがあけみちゃんという隣町の北上産で、モーグル選手の上村愛子似の可愛い子だったので乾杯をして記念写真をパチリ。まだ恋人がいないと言うので、昨年夏に通った北上市の若い兄弟がやっている肴の旨い店を紹介した。お酒も好きだと言う彼女にはお似合いの真面目な兄弟たちだと思った。場所を教えると大方はわかったようであった。僕の名前を言って訪ねるようにと付け加えた。夕食の後、外に出て夜の大沢温泉の撮影を試みた。月はまだ出ていなく深い谷間にあるので暗かったが、雪の明かりで何とか撮れたと思う。氷ついた橋の欄干を利用して両膝をついての撮影だった・・・・・・。

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翌、22日は大沢温泉、鉛温泉を撮影してから花巻市内へ。地元の宮沢賢治研究家の佐伯研二さんの家でお昼をごちそうになった。いつもそうなのだが、彼は手料理を人に食べさせるのが好きで毎回ごちそうになっている。この日は、三陸の刺身丼にホタテのスープがメイン、それに煮物と漬物が付いていた。ひとしきり近況を話した後、佐伯さんの案内で市内の賢治ゆかりの地を回った。イギリス海岸や賢治の水彩画「日輪」のモチーフとなったと言われている山など・・・・・。そして何よりもこの日僕が撮りたかったのは、北上高地の最高峰・早池峰山である。いろんな場所から撮影を試みたが直ぐに全容が手前の山などで隠れてしまいなかなかうまくいかなかった。早池峰山は昨年の夏に5回ほどと秋に2回撮影を試みたがそのどのときにも姿を見せてくれなかったのである。僕がブログ用に使っている「SIGMA-DP1」の装着レンズは28ミリだ。だから残念ながら白銀の早池峰は極めて小さい。上記写真のイギリス海岸のはるか向こうに白く光っているのが早池峰山である。

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夕方に花巻で協力してくれた佐伯さんと別れて、東北自動車道で一路、盛岡へ。この夜、宮沢賢治の本の文章を担当するエッセイストの澤口たまみさんと打ち合わせをすることになっていた。6時半に落ち合って、賢治大好き大将の店「モーリオの田舎料理・どん兵衛」へ行った。この店には昨年の8月以来、盛岡に行けば必ず寄る店だ。三陸の魚の鮮度もさることながら、茸や野菜、地の豚や鶏を使った料理も旨いのだ。何よりも賢治に通じているし、登山家としても岩手山に200回以上登っているから半端ではない。「賢治さんに唯一勝てるのは岩手山に登っている回数ぐらいかな~」が彼の口癖だ。若々しい奥さんも一緒に登っている山仲間である。つまり”賢治ワールド”のある居酒屋。賢治の取材で寄らないわけにはいかないだろう。

澤口さんとの話は多岐にわたったが、そのどれもが愉快で楽しかった。彼女は原稿の最後の追い込みで多忙な時であったが、わざわざ遠くから出てきてもらったので僕としては恐縮の至りだった。話の中で賢治が行っている伊豆の大島へ取材に行こうということになった。4月中旬に実行のための計画をたてることとなった。僕も何十年ぶりかの大島、楽しみではある・・・・・・。

どん兵衛の大将に僕が「何で200回も岩手山に登ったのかね」と問うと彼は「山で酒を飲むためです。飲み終ったらすぐに降りてきちまいますよ」と言った。僕は「無無・・・・」と唸るばかりだった。深い哲学的な返答に正直驚いた。「酒を飲むために山へ登る・・・・・」想像を超えた言葉であり、簡単に言える言葉でもない。酒飲むなら何も2000メートルを超す山へ苦労して登り飲むことは無いだろう。歩くことなく街で飲めばいいのだから・・・・。僕は「今夜はとても為になる話を聞いてうれしいよ」と言っては、また盃を空けたのだった・・・・・・。


 

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